1993/11/20 セリ市、刺身、幻想

1993/11/20 セリ市、刺身、幻想(太字:当時の日記より)
(細字:注釈)

09:03
 今朝起きたら4時14分だった。アラームが14分鳴ってようやく気付いたらしい。そのまま仙崎港(註:長門市郊外の漁港)へと歩く。
 次々と入ってくる船から魚があがってくる。6時からセリが始まった。2人のセリ人が手分けしてあちこちの魚の山をさばいていく。ダミ声しかも早口なので、何を言っているのか聞き取りにくい。周りに集まった人たちは皆帽子をかぶり、魚に次々と声がかかるやいなや、指を出したり帽子の縁を触ったり、いろいろな符丁で値段を決めていく。一箱の値段が決まると、その人は同じような内容の他の箱もその値でセリ落とせるらしい。2個も3個も、いっぺんに買われていく。早めにセらないと手に入らないようだ。
 最初の値はセリ人が決め、そこからセリが始まる。すごくはやい。あっという間。10秒も一箱にかからない。買われたものには屋号を書いた札を置いていく。横では後の代金支払いに使うのであろう、値とセリ落とした人の名前を次々にメモしていく人がいる。セリ落とされた魚は柄の長い鎌で引っかけ、手押し車にのせられる。この鎌は魚を移動させたり箱を移動させたり、みんなが持っていて、まるで手足のように使う。たいしたものである。
 買う人がつかないものもある。そういうのは値が下げられたり、「これは○○が2匹もはいっとるよ」などとセリ人がPRしたりする。そうやって何とか買い手がついていくので、僕が見た限り全ての箱が売れている。
 魚の鮮度は手で身を押して確かめるらしい。自分のセッた魚をそうやってつつきながら、「今日はダメやったわ」と、セリの失敗や魚の質についてしゃべっている人もいる。
 まさに真剣勝負の場であった。じゃんけんのように、一斉に指を出して値を決めているのもある。どういう場合にそのようなセリ方をするのかは分からない。
 揚がっていたのは真鯛、甘鯛、ヒラメ、カレイ、ブリ、ハマチ、シイラ、黒鯛、石鯛、ハタ、タコ、数種類のイカ、アジ、太刀魚、カマス、サメ、カワハギ、ウマヅラハギ、いとより、渡りガニ、なまこ、カキ、サザエ、アナゴ、シャコ、車エビ、名前を知っているのでそれくらい。

 山陰といえば海、海といえば魚という、比較的単純な連想で魚市場をのぞきに行ったのである。17歳の少年としてはやはりここで「勤労の尊さ」などに目覚めるものなのであろうが、最後の「魚の名前列挙」にみられるとおり、唐突に食欲に目覚めてしまったのであった。目をうつろにして「美味しそう」の一念でうろちょろしていたため、市場の人たちにはさぞ迷惑をかけたことであろう。
 結局この後、萩に出て刺身定食を食べることになる。

14:10
 (萩の料理屋「なかむら」にて)刺身はワカメ、ハマチ、鯛、イカで、どれもこれもうまい。ハマチは脂がのっていても、養殖のくどさとは全然別 物。ワカメは生らしく、本当に歯触りがいい。

 と、17歳の少年は、ゴタクを並べながら刺身を食べるのであった。おまけにレンタサイクルを借りて萩市内の名所旧跡までまわってしまうのであった。1500円の刺身定食を食べているくせに、数百円を惜しんで松下村塾を訪れていない。有為あふれる年頃としては、刺身はさておいても松下村塾は見ておくべきであったろう。

16:00
 (列車待ちの益田駅にて)益田は雪舟と柿本人麻呂ゆかりの地。雪舟巻き、雪舟饅頭などの菓子が並ぶ。駅のホームには、狂言か猿楽のお面 のような、たれ目がくわっと見開いている不気味かつ滑稽な人麻呂像がある。3個100円のまんじゅうとユズジュースはなかなかである。

 こういうところの旧蹟こそ訪れてみるべきなのだろうが、駅の売店で買った名産品をおやつに休憩するうち、そのような心持ちは吹き飛んでしまったようである。元々そんな気持ちがなかったのであれば、我ながら少し悲しいことである。

19:15
 毎日10時間は列車に乗っているので、十分な思索の時間がある。しかし、ともすれば夢想幻想に走ってしまう。現実味のないことをしている。

 この時、私は何を考えていたのだろうか。その記述がほとんどないので、今となっては記憶の中に埋もれてしまっている。残っているのは、残念なことに煩悩の固まりのような記述である。
 このあと、ひたすら列車を乗り継いで鳥取県の浜村まで。温泉に入るつもりだったが、あまりにも時間が遅すぎて断念。倉吉から例の如く、上り「だいせん」に乗り込み、香住で降りるつもりがぐっすり寝過ごして豊岡まで行ってしまう。いつものパターンである。


今日の使用金額 3660円

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