夢日記:史上最低最悪

夢日記:史上最低最悪 廃線になった北海道のローカル線、僕は小さな郊外都市で、そんな駅に歩き着いた。列車は来ないはずなのに、煌々と水銀灯が小さなホームと待合室を照らす。
 寒さは感じなかった。
 向こう側の線路に列車がゆっくりと滑り込んできた。
 僕たちは顔を見合わせ、もう一度この鉄道が廃止されたことを確認し合った。けれど、列車はまたゆっくりとホームを過ぎ去っていき、車内には幾人かの乗客の姿が見えた。
 僕たちは線路をゆっくりと、なぞるように歩き始める。

 インドネシアの首都ジャカルタ。僕は旅先で出会った奴らと一緒に昼飯でも食べようと思った。道を歩いて見つけたのは「ホテルアンバサダー」。
「この中にレストランがあるんじゃない?」
 インドネシアならホテルの中にあるレストランでも、お代はたかがしれている。でもみんな躊躇している。
 僕もためらった。
 その向かい側に、トタン葺きの食堂が目に入った。
「ここでナシゴレンでも食べようか?」
 みんなでそこに入ったけれど、僕も含めて誰もナシゴレンなんか注文しなかった。

 安宿には狭苦しい階段しかなかった。温水の出るシャワーは1階の共同スペースにしかなく、僕は階下に降りていった。だけれどもシャワーは出ない。いつの間にか石鹸だけを塗りたくった体一つで僕は階段を上がる。その下からは見知った女の子たちがやってくる。
「どいてくれない?」
 僕は必死で体を隠しながら、壁に張り付くように身を狭めた。女の子たちはその横を通り抜けて、先に部屋へ入っていく。

 ジャカルタで出会った奇妙な外国人。妙に気のいい奴だけれど、誰もがこいつの正体を知っている。そう、後から僕たちはカモにされるんだ。
 同宿の男は道向かいの家を傷つけてしまい、そいつらは彼に怒鳴っていた。激しく。彼は弁償を申し出たけれど、とても彼に払える金額ではなかった。
「4時半から」
 いつの間にか、時間の交渉に変わっていた。怪訝に思った僕は、その人の輪に近寄っていった。彼は金の代わりに、自分の恋人を貸し出す約束をしているところだった。にやにや笑っている住人たち。横でそしらぬ顔をしている奇妙な外国人。
 僕はやるせなくなって、まだ見ぬ彼の恋人、おそらく向かいの部屋にいるはずの彼の恋人を思いやった。
 彼女はそんなことを許すんだろうか・・・?
 たぶん許すんだろうと思った。そういうもののような気がしてきた。

 独り歩く。アーケードを抜けると、雨粒が激しく降り落ちてくる。伊丹市役所が目前に現れ、「今日の伊丹市の雨降り模様」を伝えるニュースの声が、僕に飛び込んできた。

 部屋のブレーカーを確認するついで、隣にあったガス栓に目がいった。壁にはガスを確認する小さなLEDが、小さなガラス窓の奥にあるのだけれど、何も見えなかった。
僕は不安になった。ガスの元栓を軽くひねり、ガスを止める。それだけのことのはず。
 ガス栓は根元のナットが見る間にゆるみ、そして部屋の中に音を立ててガスが充満し始めた。必死になってガス栓を戻そうとする僕。だけれども焦りで手が震える僕よりも先に、あのいやな臭いが僕と、そして僕の周りの空気を浸食する。一気に。ガスが僕の肺にも入り込む。頭の中がすうっと苦しくなって、僕は倒れ込みそうに、

僕は部屋のドアを閉め、さして長くもない廊下をエレベーターに向かった。エレベーターの行き先ボタンは奇妙に文字が反転して、どこにも「1」の文字がない。必死で僕はボタンを押すけれど、それは今僕が慌てている場所、「7」の文字だった。
もう一度ボタンを押すと、僕のいる7階のすぐ隣り、「1」のフロアにエレベーターは到達する。
 僕はタクシーに乗り込み、ジャンクションだらけのやけに近代的な幹線道路を走らせる。誰かにあの惨事を知らせなければならない。僕は携帯電話をポケットから引っこ抜く。誰がいいんだろう。
 誰の電話番号も思い出せない。
 携帯電話には父親からのメッセージが入っている。「今晩は何時に迎えに行けばいいか?」僕はついに、父親の電話にかけ直すことが出来ない。こんなこと、彼には話せない。 僕は唯一思い出した、母親の家に電話する。
 僕は最悪の状況を思い浮かべ、どうしてサーバのハードディスクだけでも持ち帰らなかったのか、ノートパソコンだけでも持ち出せなかったのか、それを少しだけ悔やんだ。

 新幹線の駅には母親がきていた。
「大変なんだ」
 母親に急かされながら携帯電話のボタンを押すけれど、僕は一回もうまくダイヤルすることが出来ないまま、時間が過ぎていく。やっとつながった電話。僕は携帯電話を母親に押しつけ、まだ続くあのいやな臭いと肺に溜まったガスの気持ち悪さに悩まされ、
 電話が通じたみたいだ。
 母親に必死でジェスチャーを送り、間違えてばかりの母親に、正しい僕の住所を相手に伝えてもらおうと努力した。僕が電話に出れば・・・、それがいいのかもしれないけれど、・・・僕にはそんな勇気がなかった。

 そして、もう一度僕の部屋に引き返す。

 母親が僕に伝えた。
「・・・火が出たみたいよ」
 僕はもう何も言えず、何の声も聞こえず、ただ炎を上げる僕の部屋を思い出し、同時にもしすぐさま窓ガラスを割ってガスを部屋の外に放出することが出来たのなら助かったのかもしれないなと空想して、しつこく肺に残るガスの残留感が耐えきれなくなって・・・。

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