コーヒーとパンのうまさ、まずさ、インドシナ半島にて

先々週の旅から帰ってきて、そろそろ余韻が抜けるころ。昔からそうなんだけど、旅がはじまる前一週間は「来週の今ごろはどこそこにいるんだな…」と、ぽわんとした夢想にふけり、戻ってきてから一週間は「先週の今ごろはどこそこにいたんだな…」とぼんやり肘をつく。そうやって、ようようクールダウンしていく。牛は胃袋が4つあるというけれど、僕の脳みそも4つくらいあるんじゃなかろうか。旅を反芻するために。

閑話休題。


数年前にタイを訪れた際には、 チュンポンという地方都市でエスプレッソ・フラッペを頼み、まことにタイもコーヒーが旨くなったものだと思ったけれど、前言撤回。やっぱりホテルで飲むコーヒーはネスカフェで、粉ミルクを入れてすすることがほとんどの毎日。
僕は世界中どこにいようとも朝はコーヒーにパン、なのだけど、タイはパンも今ひとつ(もちろん旨いパン屋も多いけれど)。「バゲット」というから期待してみれば、こりゃどう見てもどう味わってもコッペパンだろ、というものしか出てこない。食パンはなぜか日本のものより一回り小さく、ぱさぱさしている。

数年前に訪れたラオスでは、ほんとうに旨い、外がカリッとして中がもちもちしたバゲットを、ネルで漉したコーヒーとともに朝からカフェで食べられたものだ。別に外国人向けのカフェだけでなく、婆さんが天秤棒にもっこを担いで売りに来るパンだって、ちゃんとしたバゲットなのだ。
カンボジアでもそうだった。コーヒーはいまいちだけど、バゲットの味はラオスと同じ。それをアジア風味の野菜と調味料でサンドイッチに仕立ててかぶりつく。至福の朝食。ベトナムには行ったことがないけれど、話に聞くかぎりでは、ラオスやカンボジアと同じような光景であるらしい。

で、これらの国の共通点といえば、フランスの植民地であったこと。
タイは、といえば、英邁な国王ラーマ5世のおかげで、インドシナ半島では唯一植民地化を逃れ、独立国としての矜持を保っている。

うまいコーヒーとパンのある、瀟洒な(まさにコロニアルな)街並みの残る国は、例外なく帝国主義下での辛酸を嘗めており、タイはその苦しみを味わわずに済んだため、21世紀に至るまで、あれほど外国人観光客の多い国であるにもかかわらず、コーヒーとパンが不味い。

コーヒーとパン、このふたつが旨いことは文明の尺度のようにも思えるけれど、不味いことは文化と歴史の誇りなのかもしれない。
日本は…といえば、これが難しいところだ。

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