そろそろ新憲法草案について語っておくか

日本国憲法が長らくのβ版サービスを終え、正式版にバージョンアップされるらしい。
セキュリティ機能の改善など、正式版にふさわしい新機能が実装されるとのこと。

自民党がお熱なご様子なので、そろそろ新憲法草案について語っておくか。

新憲法草案(平成17年11月22日)-PDFファイル、自民党

現:第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

草:第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定められる場合を除き、国会の議決を経なければならない。

「法律で定められる場合を除き」ということは、いったん法律を作れば皇室に現ナマ流し放題になるってことかな。

この他にも「法律で〜」という表現が頻出していて、そこが憲法改正のミソだな、とすぐに気づく仕掛けだ。

現:第九条の二 前項の目的(註:平和の希求)を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

草:削除

ここは見てのとおり。改正の白眉。

現:条文なし

草:第九条の二 3 自衛軍は、前項の規定(註:自衛軍の保持)による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

軍隊がどうシビリアンコントロールされるか、という、近代民主国家のあり方の根幹は、憲法ではなく法律に定めればOKなんだそうだ。具体的に言えば、法律に「緊急出動と事後承認」と書いた瞬間に恐ろしいことが起きる。これ、太字の部分が削除されれば、国家のPrincipleとしての憲法が、立法による骨抜きからシビリアンコントロールを擁護できるんだが。

現:条文なし

草:第九条の二 3 自衛軍は、第一項(註:自衛軍の保持)の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、または国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

治安維持出動要項が国民保護より前段にくる軍隊なんて、右翼の嫌いな中共軍とまったく同じじゃないか。

現:第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

草:第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。

憲法は国民が国家をコントロールするための神器なのだけど、今回は憲法が国民に自覚を強制することになっている。ついでに、自由と権利は「公共の福祉」ではなく「公益と公の秩序」のために使われる。自由より秩序が大事な美しい国です(棒読み)。

現:第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

草:第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

ここも第十二条と同じ。ちなみに大辞林によれば、福祉とは『社会の構成員に等しくもたらされるべき幸福』であり、秩序とは「その社会・集団などが、望ましい状態を保つための順序やきまり」である。くどくど書くが、幸福より利益と調和が大事な美しい国です(棒読み)。

現:第二十条の三 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

草:第二十条の三 国及び公共団体は、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超える宗教教育その他の宗教的活動であって、宗教的意義を有し、特定の宗教に対する援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるようなものを行ってはならない。

解釈改憲はうんざりだったはずなのに、解釈改憲が可能になる条文を追加。ついでに言うと、「公共団体」には場合によって(国家賠償法関連の判例)弁護士会などが入ったりもするので、スリル満点です。

現:条文なし

草:第六十四条の二 2 政党の政治活動の自由は、制限してはならない。
第六十四条の二 3 前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

ざっと読んだかぎりでは政党活動の自由を担保する良い条文なのだけど、 政党の要件は政党助成法で定められたりしているので、うがった見方をすれば、既存政党の優越につながるのかもしれない。

現:条文なし

草:第七十六条の三 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。

いわゆる軍法会議の設置になるのだろうけれど、国軍化にともなって必要になるということなんだろう。問題は軍事裁判の対象範囲だな。ふつうなら軍人だけか。

現:第七十七条の二 検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。

草:第七十七条の二 検察官、弁護士その他の裁判に関わる者は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。

狙いがわかりやすい範囲拡大でよろしい。まったくもって。

現:第七十九条の二 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。

草:第七十九条の二 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。

細かいところがきな臭い改憲案だ。最高裁判所裁判官の審査がザル化可能な条文です。さらに、

現: 第七十九条の五 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

草: 第七十九条の五 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、やむを得ない事由により法律をもって行う場合であって、裁判官の職権行使の独立を害するおそれがないときを除き、減額することができない。

絶対的な保障を外し、「法律による」例外規定を設けることになるわけだ。

現:第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

草:第八十九条の一 公金その他の公の財産は、第二十条第三項の規定による制限を超えて、宗教的活動を行う組織又は団体の使用、便益若しくは維持のため、支出し、又はその利用に供してはならない。
第八十九条の二 公金その他の公の財産は、国若しくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対して支出し、又はその利用に供してはならない。

ようするに、どこかの神社の玉ぐし代が出せるようになるということか。愛国者を自認するなら、そのくらいポケットマネーで出してほしいもんだ。後、「公の支配に属さない」を「国若しくは公共団体」に具体限定化しているところもポイントです。

現:第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

草:第九十六条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。

最後の目玉は憲法改正要件の緩和。これで現在の一時的かつ奇跡的な議席数がなくなっても、簡単に憲法改正ができるように。

と、いちおう全草案に目を通してみた。引用したのは草案中の気になった部分だけで、そのほかはまあ改正してもいいんじゃないか、と思うけれど、引用部分が意図するところにはいささか茫然とする。自衛隊の存在を明記するなんていうのは、こうやって見るともはやたいした問題ではない。管理国家万歳。まもなく日本国終点です。

ついでに言うと、憲法前文の改定案は、品格がないから止めてくれ。馬鹿が作る憲法の見本みたいだ。

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