南国の寿次第-05:ヒンドゥー教式で婚姻の誓い 2008/12/22

2008年12月22日大安吉日。この日はついに(たぶん)人生一度の結婚式。午前中は希望者を連れてスパへ。スミニャック北側にある「SPA CURE」。
思い思いのコースを選ぶなか、僕はふつうのフットマッサージ。妻は結婚式のためにネイルカラー。フットマッサージは260,000Rp.(=2,400円)+チップ少々。ほどほど価格の旅行者向けスパという感じで、日本語もばっちり通じるのは、さすがるるぶ掲載の店舗だ。

午後はいよいよ式場へ。準備があるため家族より2時間ほど先に出発。

タマンサリ宮殿は、スミニャックからほぼ真北へ20kmほどのメングィ地域にある、かつて栄えた七つの王家の一が本拠にしたところになる。車で山へ続く緩やかな道を小一時間走ると、小集落の脇道に車を止める。
バリ独特の割れ門をくぐり、敷地に入ると、すでに式場いっぱいが美しく楚々と飾り付けられており、宮殿の向こうに広がるのは青々とした棚田。まさに絵に描いたようなバリの伝統的なシーナリーが広がっている。王宮とも宮殿ともいえ、そこは小さな島の王様の持ち物なので、名から想像するほどの豪奢さはないが、古びながらも清められた建物が、いかにもの風情をかもしだしている。

タマンサリ宮殿のメイン。新郎新婦が着座する場所。

控え室で、夫婦揃ってきらびやかな民族衣装の着付けをする。男女ともサロンが基本なので、まずはぐるぐると体に巻き付けていく。インドのサリーのようなものだ。
男性はわりとあっさり終わってしまうけれど、当然ながら女性の方が衣装をつけるのに手間がかかり、それ以上にすごいのは頭飾り。冠みたいなものをぱかっとはめるだけだと思い込んでいたが、実際にはアップにした髪に一本ずつ簪を挿していき、最後に何十本もの簪をきれいに整えてあたかも冠のように仕立て上げる。この作業を見るだけで感心するというもの。ほんとうに手間を惜しまぬセットアップだ。

その後はメイク。衣装が映えるような南国テイストのチークに、深紅の口紅、そして女性の黒髪が美しいというアジア共通の文化に従い、額の上部を黒く塗っていく。実は男性もメイクをすることができ、スタイリストさんに勧められたのだけれども、そこまでは…ということで新郎はすっぴん。後から思えば、男も化粧していくのも、貴重な経験だったかなあと思わないではない。すべてを身にまとい、カメラマンとビデオマンがいるので、彼らに言われるがままにポーズをつけて撮影。後から写真を見ると、やっぱりプロだなあと思わせるすばらしい出来映えだった。カメラマンは日本人だった。このあたりが、さすが日本人が運営するコーディネーターだな、と思う。

ややあって、両家家族も式場に到着。彼らも全員更紗の民族衣装に着替えていく。父などは「バリの王族風ですな!」と悦に入っていたけれど、ソフィテルにいたボーイさんにそっくりだった、というほうがより真実に近かろうと思われる。全員で、まるで仮装大会だ。

そして、夕暮れがいますこしではじまろう、という刻限になり、僕らの結婚式ははじまる。家族を残し、まず僕らは宮殿を出た外れまで、自動車で戻る。降り立った瞬間、楽隊が一斉にケチャのメロディーを奏で始めた。一気に映画の中へ入り込んだようなストリームが僕らを包む。太鼓、鉄琴、シンバルに太鼓の音が僕らを包む。
そこに用意されているのは人力車。しずしずと、おずおずと僕が先に乗り込み、妻の手を引いて隣に座らせると、間髪もなく花を蒔く仕草の少女たちと、魔除けの旗や松明を掲げた少年たちに先導され、車は宮殿へとゆっくり進んでいく。村の子供たちや観光客も行列を取り囲み、僕らのパレードが進んでいく。

本殿の脇にある控え室で、まずは少女たちの奉納の舞を見、宮殿の持ち主である旧王族の当主から祝いの言葉をありがたく受ける。その後新郎新婦は中央の庭へ進み、聖水で頭と手を清める。ここからが結婚儀式のはじまり。
最初に行うのは椰子殻を互いに蹴り合い、二人で息を合わせ困難を乗り越えることを誓う。そして二人の間に引かれた糸を、両側から寄り添って切り、二人が共に歩むことを誓う。それから、妻が差し出す椰子の葉で編んだコースター状のものを、式中ずっと捧げ持っている短剣で切り裂く。これはつまり、初夜のメタファーなんだそうだ。

以上が二人の結束をあらわすセレモニーだとすると、バリのそれが面白いのは、次に新生活を模した所作が組み込まれていることだ。結婚は一時の熱狂のみならず、といったところだろうか。紙幣を二人で持ち、バナナと水を買い求める真似をする。これが仲良く市場でお買い物をする儀式。次は互いにそのバナナと水を食べ飲ませあう。西洋式にならえばファーストバイトだ。最後に、食べていくには勤労が大事、ということで、妻が椰子の苗木、夫が鍬を持ち、苗木を二人で植える。共同作業を結婚式の中でひととおりさせるってのは、なかなか示唆に富む話だ。

一連の作業が終わると、またあらためて聖水で清められ、聖なるものとされるお米を額やこめかみに貼りつけ、本殿へと上がる。楽団の音もいったん止み、ちりりんと鈴だけを僧侶がならす中、女性がお経を詠い、僕らの結婚を神に届ける。その頃には、もう夕焼けも終わり、とっぷりと日が暮れている。最後に、外国人ということで、マリッジリングの交換と誓いの口づけを交わす。本来のバリ伝統の結婚式にはないものだそうだけど、そのあたりはヒンドゥーの神様も、祝い事ということで融通をきかせてくれるってわけだ。

最後に婚姻証明書(法的拘束力はない)に署名し、再び王様の子孫に祝福を受け、以上にて結婚式終了。

式後のディナーパーティーは、宮殿内にあるガゼボでビュッフェとなる。最初にケーキ入刀…ではなく、せっかくバリなのだからと、事前に特注したバビ・グリン(子豚の丸焼き)に入刀。それからは流れ続ける生演奏のガムランの中、両家家族と駆けつけた知人たちでひとしきり盛り上がる。最後には踊り子たちがダンスを披露し、そしてみんなで輪になって踊る。

結婚式が過去と未来をつなぐハレの結節点で、それをみんなで祝うものだとすれば、バリの力でその原点に返ったかのような、とても楽しい結婚式だった。終生忘れえない一日となるに違いない、そんな12月22日。

タマンサリ宮殿のメイン。新郎新婦が着座する場所。 宮殿までは人力車を仕立て、可愛い男の子、女の子から介添えのご婦人衆、楽隊にいたるまで総勢100人の花嫁行列で向かう。 先導する男の子は「パユン・ボーイ」といい、松明を持って露払いを務める。 二人の衣装。男性はまるで裳裾のように垂れた布が長く、女性が人力車に乗るときなどはじゅうたんがわりに差し出す。 席に着くと、少女たちが奉納の舞を捧げてくれる。結婚は神聖なものであり、それは神に祝福されるもの。というのは万国共通。 祭壇に向かい合って座り、この席でお清め、お祓いを受け、ヒンドゥー教のお経を読んでもらう。 式後のディナーパーティーには、幸せを祈る翁も登場。 もちろん、芸術の島らしく、パーティーには踊り子も参加。プロの踊りを惜しげもなく自分たちのためだけに披露。

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