1999/01/24 インド準備体操

今日は旅の準備をしようと思う。タージマハールで有名なアグラ、そしてエロティックな建築で有名なカジュラーホーへの切符を買いたい。
通りの外れでチャーイを飲む。3ルピー。牛乳が良いのか、コクがあって体が温まる。
ニューデリー駅には混雑を避けるために、外国人専用の窓口があるらしい。標識を頼りにうろうろするが、どうも見つからない。と、男に呼び止められる。
「外国人窓口かい?今日は日曜日だから閉まっているよ。切符なら観光公社で買えるよ」なるほど。言われてみれば確かに今日は休日だ。淡々とした男の口ぶりに、あっさりと僕はその言を信じ、男についていくことにした。
人を騙すにはポイントがある。
一つ、もっともなるほどな理由があること。
一つ、素っ気ない口調。
奴はその意味でプロだった。
連れて行かれたのは『普通の』旅行代理店だった。こういう状況になった場合、インドでは普通 まずぼったくられると思って間違いはない。
代理店の人間は僕が乗りたい特急のチケットを、法外な値段で売りつけようとした。
「全部わたしたちに任せておけば安心だ。何も心配することはない。ノープロブレム。そうだ、この新聞記事を見せよう」
彼が取り出したのは、「日本人旅行者の遺体が、デリー郊外で発見された。犯人はタクシードライバー。デリー空港から市内の間で殺害された模様」という英字新聞の切り抜きだった。ご丁寧にもスクラップブックに挟んである丁重さ。
「インドはデンジャラスなんだ。だからわたしたちプロフェッショナルに身を委ねたまえ」
やれやれ。何度この独り言を呟かなくちゃ旅は進まないんだろう。列車の切符とこの殺人に、いったい何の関係があるというのだ。
「その時刻表を見せてくれ」
男はインド国鉄の時刻表を見せながら、僕を説得しようとしていた。この僕に鉄道の時刻表を差し出したのが最後、それなら鉄道マニアのこっちのものだ。僕は時刻表をひったくると、運賃早見表を探し出して男に突きつける。
「どういうことだ。お前の言った料金の三分の一以下じゃないか」
「・・・、それは少し古いんだ」
男は苦しそうに答えた。勝負あった。
「じゃあな」
「ミスター、一人旅はデンジャラスだ」
「大丈夫だよ。ノープロブレム」
再び駅に戻り、僕は一般の窓口で四苦八苦しながら時刻表と切符を入手した。ニューデリー駅の南寄りには、鉄道局管轄の切符売り場があった。最上級の特急列車は、デリー-アグラー、アグラー-ジャンシー(カジュラーホーの最寄り駅)を合わせて665ルピー。1000ルピー札を差し出すと、「5ルピーは持っていないか?」と窓口の係員に訊かれる。他の発展途上国とは異なる応対で、日本的だ。さすが数学発祥の地。

メイン・バザールに戻り、今度はインド服を仕立てることにする。この通 りには色とりどりの生地を並べた店が軒を連ね、選ぶのに困るほどだ。親父の愛想の良さ、というあやふやな理由でそのうちの一軒に入ることにし、まずは生地を選ぶ。薄手のクリーム地の綿布を、上下二着分購入。これで400ルピー。仕立て代は100ルピーというので言われるままに支払い、採寸に移る。この値段で完全オーダーメードというのはなかなかに心地よい。ちょっとしたお大尽気分だ。
生地屋と仕立屋は別の店になっている。一緒にやればよかろうと思うが、そこはカースト制度が存在するインド、厳然と分業になっている。カーストは職能制とも分かち難く結びついているのだという。貧しい国でのワークシェアリング、ともいえそうだ。
生地屋の親父が、仕立屋に何事かを言う。と、仕立屋が猛然と語気を荒げた。100ルピーでは足りない、120ルピーにしろという。生地屋は、「そういうことだ、あと20ルピー」困ったように僕に要求した。交渉の末、10ルピー追加で手を打つことにした。出来上がりは今日の夕方とのこと。

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さて、デリー見物に出かけようと思う。まず向かったのはかつてのムガール帝国の王城、ラールキラー。リキシャを捕まえて走らせるが、ずいぶんと迂回して目的地に向かう。今までの苦い経験上、目的地に無事到着せず、どこぞの旅行代理店に連れ込まれる可能性が脳裏をよぎる。そのため、到着までずっと身構えたままだった。結果的にはことなくラールキラーに到着できたのだけれども。リキシャ代は30ルピー。
これが城か!
赤茶色の岩で造られた城の大きさは、日本人の度肝を抜くに充分だ。延々と連なる城壁、見上げんばかりの櫓。写真からは想像も出来ないその拡がり。感嘆しながら入場券を買い、城内に入る。中はさして目を引くものもない。この城は初見の一瞬こそが最も素晴らしい。
それから、オールドデリーにあるモスク、ジャマー・マスジットを見物。オールドデリーの物売りの激しさは噂通りだった。日本人と一発で分かる僕の周りには、西洋人の倍くらいインド人がたかる。
さて、と帰りの足を探すが、こういうときに限ってオートリキシャーは見あたらない。ならばゆっくり町並みを眺めながらの帰路も良かろうと、サイクルリキシャーを呼び止めてメインバザールへ。20ルピーで交渉したのに、25ルピーで不満げ。やれやれ。

日が暮れ始めた頃、インド服を取りに行く。3つボタンのカットソーのような上着と、ひもで縛るだぶだぶのズボン、クルーターとパージャマー。なかなかの仕上がりで満足。惜しむらくはケチって薄手の生地にしたため、冬のインドでは少々寒い。後で上着を探そうと思う。
夕食にはなかなかうまいターリー、インド風定食を食べる。 アルミ盆に数種類のカレーと豆スープ、ヨーグルト。それにライスとチャパティーが食べ放題で25ルピー。野菜カレーがうまい。この後様々なターリーを食べるのだけれども、野菜カレーのうまさは日本より一段上をいっている。海外の野菜はどこでも大味だというのが今までの経験だったのだが、インドの野菜は味が濃い。カリフラワーやトマト、茄子など、具もバラエティーに富んでいる。

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食堂を出ると、映画館に行列が出来ている。突発的に僕も行列に加わり、映画を見ることに決めた。座席は1階席と2階のバルコニーに分かれている。治安も心配なので、素直にここはバルコニー席を購入。20ルピー。
明快単純勧善懲悪。それに俳優たちの乱舞。字幕もないけれど、だいたいの筋が分かる程度に単純なので、それなりに楽しめた。インド人たちは、悪役が出てくればブーイング、ヒーローが活躍すれば口笛と、すさまじい歓声を上げながら映画を楽しんでいる。まるで舞台を見ているようだ。マサラムービーを堪能して、宿に戻る。

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1 Response to 1999/01/24 インド準備体操

  1. kann のコメント:

    インドの民族衣装を教えてください

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