今は、閉店間際の喫茶店で人を待っている。
アルコールにはあんまり縁が無い代わりに、行きつけの喫茶店は何軒かある。そんな日々住み暮らす場所の慣れた椅子に限ることなく、僕はどこに居ても喫茶店に入り、そして一服するのだ。心の中には一度しか訪れたことのない店でのいっときですら、わりあいに鮮明に、畳み込まれている。タイの田舎町で。クアラルンプールで。インドで。香港で。東京で。門司で。故郷の田んぼの真ん中で。
僕は小さな爪痕をすれ違った街並みに残すかのように、今だってぬるくなりかけたアイスティーを啜る。
そうやって少しずつ生きていくのが、本当のところは、性に合っているのに違いないのだろうけれども。