夜更けの道

夜更けの道何人かに電話して結局誰も捕まえられなかったので、ポッケに手を突っ込んで、あてもなく三宮の街に出てみる。センター街、高架下、トアロード、鯉川筋。僕はまだそういった馴染んだ街との距離を取りきれずに、それでも歩を進める。昔の恋人に会うような、面映ゆい気分だ。

何軒か、ふらりと入ることにためらいのないバーを知っているので、そこに行ってみるけれど、どれもすでに無くなっていた。そりゃそうかもしれない。僕がこの街で飲んでいたのって、よく考えてみれば5年以上も昔の話なのだ。その後も三宮のすぐそばに住んではいたけれど、働きだしてからはやっぱりご無沙汰になっていた。
フェードアウト。
ゆっくりと暗転。

トアウェストを抜け、元町に出る。このあたりで、本当によく飲んだ。すぐそばに「ホテル・エレガンス」が、これはまだ存在していて、トアで飲んだ後のお誘い場所には、本当に場所が近くて重宝した。神戸のホテル街といやぁやっぱり異人館の近くにある不動坂近辺なので、トアウェストで飲んだ数分のところに位置しているというのはなかなか物語の展開上便利だったのだ。
とはいえ、もう少しほんものっぽい物語になると、やっぱりハンター坂にあるバーで最高に旨いウィスキーとかカクテルを飲んで、あるいは一時行きつけにした料理屋で刺身でもつまんで、ちょっと肌寒い中を不動坂まで上がるにかぎる。目が覚めたならばまだ気だるい空気の残る後朝の時間にトアロードを下り、デリカテッセンで最高のミックスサンドウィッチを朝食代わりにするのにかぎる。かぎったのだ。

JR線を越えて海側に下り、元町にある「赤萬」か「瓢箪」で、餃子にとビール。としたかったけれど、時間が遅く両方とも店じまい。しかたなしに東門街を出て加納町に向かう。途中何度もキャバクラの呼び込みに捕まり、心外だなぁと思いつつも出張中の28歳男子が金曜の夜にふらふらしていればどちらかというとそっちの方が自然であり、憤慨している僕の方こそ、ちょいと間違った感想を抱いているのだ。

結局「麺蔵」でラーメンを食べて神戸味を懐かしみ、近くのカフェで軽く飲みながら舞城王太郎の「暗闇の中に子供」を読む。そして圧倒された。この小説は、というか舞城作品はとても不完全で危なっかしいのだけれども、それこそ彼の文中の言葉を借りるまでもなく、不完全でなければ伝えられないことがあるのだという実感が、アルコールと一緒に僕の胃の腑にすとんと落着する。ほんとうに久しぶりに、僕は文字にシンクロする。

日も替わった頃合いに、夜更けの道をホテルへと向かう。満月を仰ぎ見ながら、僕は不完全さと不自然さということについてもう一度考えてみる。そういう事がらを解消していくことに意味があるのではなく、そういう在り様を抱きかかえることが必要なのかもしれない。と、言葉にしてみる頃合いに、夜更けの道は、明るくロビーを照らす今日の宿に行きついた。

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夜更けの道 への2件のフィードバック

  1.   のコメント:

     ハルキストですなぁ(ニヤニヤ)

  2. 森島 のコメント:

    ええハルキストですが何か?デリカテッセンのサンドウィッチは、村上春樹の小説に出てくるおいしそうなサンドウィッチのオリジナルだもーん。

    ・・・このコメントを書きそうな友人が多すぎて、誰だか分かりません(泣) 狙って無記名ですな。

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