亜細亜へめぐり紀行10

1月7日

目茶苦茶眠いが、とにかく起きることができた。草木も眠る丑三つ時。早朝のフライトは、さすがにしんどい。
ターミナルで搭乗手続きも済ませ、前回トランジットで降り立った、バスターミナルみたいな簡素なLCC Terminalの待合室に入る。

これから最後の目的地、スリランカはコロンボ行きの便に。

機内はガラガラだったので、3人並びの席へ横になり、爆睡しているうちに、コロンボ空港に到着。アライバルビザを取り、入国審査を済ませ、荷物を受け取り、そして現地のSIMカードを購入。わりに淡々と進み、特にトラブルもない。

ネットで情報を集めた時には、スリランカのSIMカードはいろいろと設定が必要らしかったけれど、最近は便利になったのか、iPhoneに刺すだけで、すぐに通信可能になった。スリランカの3G通信は、想像していたよりも速度が出ていて、マレーシアと比べても大差がない。従量料金制なのが玉にきずだけれども、結果的には2週間の滞在で、2,000円ほどのチャージで済んだ。

空港のテレビではクリケットが放映されているのを見て、ああ、西南アジアへ来たなあ、と実感がわく。
まだまだ眠いので、空港のベンチで休んでから、コロンボ市内へ。時差もあるせいで、現地はまだ8時過ぎだ。

タクシーは使わず、頑張ってバスを探し、コロンボへ出ることにする。
空港そばのバスターミナルにはおんぼろバスが何台も並んでいる。一台のバスの車掌が「ころぶころぶころぶころぶー」と声を上げていて、それがコロンボ行きだった。
車内で料金を払うと、車掌の手持ちにお釣りがない。どうなるのかと思っていたら、諦めろ、と言わんばかりの態度。バス代が20円値上がった。

とりあえず駅前のホテルに荷を解く。そもそも駅前に宿があまりなく、一番外観がマシそうなゲストハウスに行ったけれど、残念ながらホットシャワーはなかった。
宿代は1,700円もしたけれど、中は驚くほどでボロっちい。もともと内戦のせいで観光客が激減し、おかげで宿も高いか、汚いか、その両方か、である。
スリランカの安宿ではこれが当たり前のようなので、ガマンする。部屋が空くのは12時とのことなので、明日の切符を買ったりいろいろしようと思う。

元英国植民地、だからなのかどうか知らないが、コロンボ駅にはさすがに英語の案内があり、それを頼りに案内所へ向かい、古都アヌラーダプラ行きの時刻を確認する。
列車じたいは何本もあるけれど、指定席があるインターシティは朝イチと夕方しか運行されていない、とのこと。真夜中の到着は避けたい、となると、自動的に明日も早起きが決定。
ちなみに、案内所で説明された時刻と、切符売り場で買えた列車の時刻は微妙にずれている。そのあたりのいい加減さは、東南アジアの向こうへ飛び出たってことの証拠でもある。

バンコクで味をしめたので、コロンボでも国立博物館へ足を向ける。
さすがに並ぶ仏教美術は素晴らしい出来のものばかり。プノンペンでも見入ったけれど、ここの展示品はそれ以上だ。

その後、スリランカが誇る建築家、ジェフリー・バワがデザインしたカフェにて休憩。リゾート建築家として知られた彼のデザインホテルに泊まってみたいもんだ、とも思うけれど、とても手が出ない。
ここで食べたパッションフルーツのムースは絶品で、東京でもなかなか味わえない。旅に出てこのかた久しぶりに、まともな甘味を食べた気がする。

コロンボはアラビア海に面している。海岸で水平線を見て、コロンボに来た、ということに何となく納得して、そのあとは妻からの頼まれものである香辛料を買い求める。さすがにカレーの本場だけあって、スーパーには香辛料が棚いっぱいに並んでいた。

宿に戻り、そろそろ夕食でも、と思ったところで、外は豪雨になった。
昼にそこらの食堂でカレーを食べたけれど、あまり美味しいものでもなかった。カメハメハ大王じゃないが、雨の中わざわざ食べに行く気にもなれず、本日は夕食抜き、となる。代わりに薄暗い部屋で、ポテトチップをかじる。

1月8日

早朝のコロンボ駅は、通勤ラッシュで大混雑していた。男性は洋装だけれども、女性はサリー姿も多く、その格好でオフィスに出勤するみたいだ。
さてここから、スリランカ鉄道の旅、はじまり。スリランカ中部の世界遺産都市、アヌラーダプラまで、およそ5時間の車中。

走り出してみると、意外に乗り心地が良いスリランカ鉄道。保線がしっかりしているのと、広軌で安定しているせいなんだろう。鉄道敷設に熱を入れたイギリス植民地の伝統が受け継がれているのだろうか。
街を歩いていても鉄道に乗っても感じるけれど、来る前には、スリランカはインドみたいなカオスなところかと思っていたが、実際には街はきれいだし、鉄道も遅れないし、結構ちゃんとしているな、という第一印象がある。カンボジアなどと比べると、全般的に綺麗なのだ。

アヌラーダプラには、ほぼ定刻どおり到着。途中から単線になったにもかかわらず、列車が遅れないのはすばらしいことだと思う。
まずは宿探し。コロンボでは水シャワーにこりたので、第一条件はホットシャワー。
首尾良く見つけた宿は一泊2,800円。かなりいい値段がする。このクラスになると、ゲストハウスというよりはホテルに近く、部屋も綺麗でエアコンも付いている。ホットシャワー、この国では付加価値なんだなと思う。

ホテルのレストランにて、焼きそばを食べる。なぜか麺が細切れにされている。昨日は夕食を抜いたし、今朝はチャイくらいしか飲む時間がなかったし、丸一日ぶりだと何でも美味しい。
ちょうど雨が降ってきた。静かな立地なので、ゆっくり時間が流れていく気がする。

60ルピーの水を買いに、100ルピーでスリランカのオート三輪であるスリウィーラーに乗って街に出る。1ルピー=0.7円なので、計算は七掛けで楽ちんだ。
帰り道は歩きながら商店街をのぞくけれど、日曜日ということもあるのだろうか、けっこう閉まっている店が多い。日曜だから店はお休みよ、という感覚は日本からすると物珍しいのだけれども、その方が自然なのかもしれない。

今日はコロンボから移動しただけで終わった一日。何もしていなくても腹は減るので、夜もホテルのレストランへ。
このレストラン、注文から料理が出てくるまでに時間がかかるのがたまにきずだけれど、吹き抜けの2階にあって、従業員の対応もいい。
何か飲み物はいるか?と尋ねられたので、何があるのか訊ねてみると、コーラ、ファンタ、セブンアップ、とのこと。それはいいとして、カレーを注文したところ、今日はNo curryだ、という衝撃の返事がかえってきた。じゃあグリルチキンでいいよ、と注文し、スリランカなのにカレーを食べない一日となった。

食べ終えると、食後の紅茶。どの注文も出てくるのが遅いせいで、たっぷり2時間かけた食事になった。優雅といえば優雅な話だ。
南国とはいえ北半球だから、空にはオリオン座が輝いている。日本では冬の星座だけに、この気候でのオリオン座は、何だか妙な気分になる。

1月9日

起床して、テレビをつける。めずらしくNHKの放送が映ったが、World版なので、残念ながら英語である。

遅めにレストランへ顔を出すと、朝食は10時までとのこと。時計は10時10分を指しているけれど、そこはおおらかなお国柄なので、作ってもらうことができた。
朝食が出てくるのを待つあいだに、階下に降りてタバコを吸っていると、他の宿泊客が頼んだタクシーのドライバーが話しかけてくる。彼の質問はなかなかグローバルな話で、「日本語のサイトを作りたいんだがどうすればいい」というお悩み相談。
日本の業者に頼まなくても、スリランカで日本語のサイトを作れば、検索エンジンのGoogleが拾ってくれるよ、スリランカで作ったページでも、日本で問題なく見られるよ、と、ごくごく当たり前なアドバイスをすると、それだけでたいそう感謝された。逆にいえば、この程度の知識しかなくても、日本人観光客をウェブからつかまえたい、って意欲はなかなか見上げたもんじゃないか。

朝食のデザートにバナナを食べる。少し小ぶりだけれども、絶妙に甘酸っぱい身がギュッと詰まっていて、バナナってこんな高貴な味だったかしら、と思う。どんなものでも産地で食べると、ひと味違う。

今日はホテルでレンタサイクルを借り、自転車で遺跡群を廻ろうと思う。遺跡地域全体の共通入場券を買わなければいけなくて、まずはチケットオフィスを探し回ったりしつつ、そのままGooglr mapと地球の歩き方をお供にして、アヌラーダプラの遺跡巡り。ガイドブックの地図は不正確なので、ここでもiPhoneにずいぶん助けられる。

ちなみに、今回の旅でSIMカードを買ったタイ、カンボジア、ベトナム、マレーシア、スリランカ、すべての国で、少なくとも都市部では3G通信が問題なく使えた。一部のエリアでは、3.5GのHSPAにも対応している。
この中で、一番遅れているのは意外にもタイだった。インフラは後出しじゃんけんになるので、後進国の方が最新環境を敷設していたりする。
おまけに、どの国でもiPhoneに限っていえば、特別な設定なしにデータ通信をつなげることができた。時代は確実に進歩しているなあ、と、旅に出て実感する。

遺跡地域はそれほど観光化されているわけでもなく、地元の人とすれ違いながら、日常のすぐ横にある遺跡を見て歩いていると、ミャンマーのそれを回ったときのような、素朴な楽しさがある。
オトナも子どももハローと声をかけてくる国。意外に素朴な国民性だ。観光客がそれほど多くないせいもある。

内戦が終わったのは数年前で、今は観光地としてリカバリーすべく、アヌラーダプラのそこらじゅうで道路が工事中。
まもなく、観光地として本格的にブレイクするんだろうな、と思う。そのあたりの発展度合いもミャンマーと同じ感覚で、旅していて一番楽しい時代に来られたのかもしれない。
博物館にも立ち寄ってみたけれど、改装中とのことでお休み。道路工事と合わせ、観光産業の準備が進んでいる。

仏塔の脇で、農業経済学専攻で、今回はNPO活動でスリランカに来ているという、日本人の学生さんに会う。彼女は日本留学経験のあるスリランカの学生さんに案内して貰って、今日は作業を離れて観光しているのだそうだ。もうおじさんになりつつあるので、素直に若いのに偉いなあ、と感心する。

ひととおり遺跡を巡り終わる。エリアの外れに行けば行くほど、森が深く、人が少なくて、静かになっていく。こんなとき思い出すのは、平家物語の冒頭だ。
もし西方浄土があるなら、ここらへんに死んだ祖父母もいるのだろうか、などととりとめもないことを考えながら、茶店で冷たいコーラを流し込む。

ホテルに戻り、足を水で洗う。スリランカの遺跡は参道から履物を脱いであがるのが決まりなので、ずいぶんと汚れている。ついでに顔を触ってみると、自転車を漕ぎ続けたせいで、ざらざらと砂ぼこりにまみれていた。
さっぱりしたあとに、本日2本目のコーラを口にする。日本では滅多に飲まないコーラだけれど、南国ではこの炭酸がのどごし爽やかで、気候に合う。そのまま風が吹くテラスで、クールダウン。

すぐ夕食の時間がやってくる。昨日はノーカリーだったが、今日はノーライスとのこと。あんまり期待もせずに魚のフライを頼んだら、刺激が強い現地のタマネギたっぷりのタルタルソースに、カレーパウダー入りの衣で揚げてあり、箸が進む美味さだ。トマトスープも、ちゃんとしたレストランで出てくるような、裏ごしした本格的な調理。値段のわりにいい仕事をしている。

満足して煙をくゆらせていると、ホテルのボーイがタバコを止めたほういい、と声をかけられる。このボーイ、顔を合わせるたびに同じことを言う。芯から心配しているのか、それとも灰皿を毎度用意するのが、面倒くさいのだろうか。

1月10日

アヌラーダプラの近郊には、ミヒンタレーという町があり、そこでは丘の上から絶景が眺められるという。
宿のオヤジからしつこく「ミヒンタレー、ベリーキレイ。You must go」とセールストークを受け、値段を聞いてみると、スリウィーラーで往復1,000円だという。
ヒマだけは売るほどあるので、行くことにした。ドライブは片道30分ほどらしい。その前に朝食をとる。コーヒーがたっぷりポットで出るのが、この宿の嬉しいところだ。

スリウィーラーで、風を切って走るのは気持ちがいい。のどかな郊外の景色が流れていくうちに、ミヒンタレーに到着した。
遺跡を見て、仏塔を見て、岩山に登る。この岩山はちょっとした聖地らしく、インビテーションロックという有難い名前がついている。岩の上によじ登り、見晴らしは絶景かな絶景かな。30km離れたアヌラーダプラの町も、はるか眼下に眺めることができる。

岩登りをしたせいか、いつもより汗をかき、少しからだが臭い。やたらに小蝿が寄ってくる。
昼食の前にシャワーを浴びたいところだけれども、ホテルに戻ってきたら、宿ごと電源が落ちていた。ホットシャワーは電気式なので、復旧まで我慢することにする。

今日はめでたくカレーもライスもあったので、チキンカレーにする。カレーとライスが置かれるだけかと思ったら、チキンの他に、豆、オクラ、バナナの花、よく分からない野菜の一式がサーブされる。
カレーはどれも美味しいが、特にチキンカレーは複数のスパイスが玄妙に組み合わされていて、汁まで全部ご飯にかけて、残さず平らげる味。
紅茶を飲んで、風通しの良いレストランでぼうっとしている。電気が復旧するのは夕方とのことなので、蒸し暑い部屋よりはこちらのほうが過ごしやすい。

くつろいでいると、ボーイがタバコをねだる。ここだけでなく、スリランカ人はとりあえず声をかけた外国人に、何かねだる癖があるように見受けられる。
タバコ、コイン、香水が、今までリクエストされた品々。こういうところは中進国じゃなくて途上国のメンタリティだな、と思う。個人的な経験だけれども、持ち物をよくねだられるのは、アジアだとインドネシア、カンボジアあたりだ。
たそがれ時になって、ようやく電気が復活し、ライトがともる。暗くなったいいタイミングで直るもんだと、感心する。

相も変わらずホテルのレストランで夕食をとっていると、ボーイが「あそこに日本人がいる。今日からのゲストだ。お前は友達になるといい」と、向こうにいる男性を指さした。
お節介だな、と思いつつも、日本語の会話も絶えて久しいので、まだ若い彼と、食後に旅先の歓談をする。M君は24歳とのこと。若い。

後日談になるけれど、このときは単に楽しい旅先の出会いだと思ったが、M君とは帰国してからも長い付き合いになった。
しみじみと旅の功徳を感じる縁だ。

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