亜細亜へめぐり紀行13

1月17日

午前中に身支度と荷物の整理を済ませ、昼からショッピングに。先日訪れたマーケットにて、妻の頼まれものである香辛料やマッサージオイルなどを買い求める。
スリランカにもろうけつ染めのバティックがあり、値段も安い。男独り旅なので見るだけにとどめたけれど、女性なら買いたくなるんじゃないだろうか。

午後3時発のインターシティトレインでキャンディを離れる。キャンディにはもともと2泊の予定だったけれど、予定を変えて3泊してよかったな、と思う町と宿であった。
キャンディ駅はゲストハウスから徒歩10分くらいなので、それほど苦もなくたどり着く。すでにプラットフォームにはコロンボ行きが停まっていて、これから乗り込む一等の展望車が最後尾に連結されている。
車内にエアコンはないけれども、眺めはパノラマで、楽しい道中になりそうだ。コロンボ駅の売店は移動式の屋台になっていて、何やら声を張り上げながら、ホームをうろうろと行ったり来たりしている。欲しいものがあれば、窓からひょいっと手を伸ばして買えるのが面白い。

定刻どおりに列車が動き出す。走り始めてみると、180°車窓からスリランカの風景が広がるっていうのは、まるでテーマパークライドみたいだ。
こんな楽しい乗り物が、2時間半乗って250円。車両が揺れて、車内販売の紅茶を飲むのもひと苦労だけど、旅情は満点。

スリランカは熱帯だけに、どこでも二期作が盛んだ。あちらこちらの南国で何度見ても、たわわな稲穂と青々とした田植えがお隣どうし、という光景にはなじめないものがある。日本人の季節感にとって、やっぱり田んぼの原風景は、大きい存在なんだろうな、と考える。

コロンボに近づくに従って、すれ違う列車も増えてくる。近郊輸送の手段として、きちんと鉄道が活用されているということなんだろう。
下りの普通列車は、どれもラッシュのせいか、ぎっしりと人で埋まり、超がつく満員状態。コロンボには定刻から10分の遅れで到着。この運行は、途上国としては優秀なレベルだと思う。

コロンボのゲストハウスには懲りていたので、本日から2泊の宿は、港のそばにある「Grand Oriental Hotel」をネットから予約しておいた。ここはかつてのコロニアルホテルで、老朽化にともない値段も手ごろになったという、王子は一流ホテルだった、という二流ホテル。なので、荷物を運ぶボーイが控えていたりする。最新のホテルに比べればずいぶんすすけて見えるけれど、とはいえ、今まで泊まってきたゲストハウスよりは、さすがに雰囲気も良い。

ホテルは港湾近く、一等地のオフィス街にある。つまり夜になると、ホテル以外にメシを食べる場所がないということでもある。
しかたないので、ホテル内にある2軒のダイニングのうち、安いほうでインドカレーを食べることにする。ここで、初めてフィッシュカレーを食べる。中に入っていたのは、なまり節のようになったカツオ。カツオはモルジブの近海でよく獲れることから、このあたりではモルジブフィッシュと呼ばれているらしい。煮崩れないので、カレーには合うと思う。
ご飯の代わりに素麺を固茹でにしたようなものがでてきたが、カレーうどんだと思えば、それほど違和感はない。

部屋に戻る。従業員や客とお喋りしていたゲストハウスから、普通のホテルに移ると孤独な気持ちになる。
このホテルには、琺瑯が剥げているけれど、それでもバスタブがある。今回の旅でバスタブのある宿に泊まるのは3軒目だが、じゃばじゃばと熱い湯が溜まるのは初めてだ。

1月18日

最上階にあるダイニングで朝食を取る。品揃えは変哲のないビュッフェで、カレーが何種類かあるくらいだけれど、コロンボ港を眼下に見下ろす光景は、まるで横浜のニューグランドを思い起こさせる。
元一流ホテルというのは、堅苦しさがないわりに、サービスや雰囲気はどことなく昔のままで、意外に落ち着く。そんなに繁盛していないので、静かだということもある。オムレツがオーダークックであるあたりが、古き良き伝統を感じさせる。
窓には撮影禁止との張り紙がある。軍事機密ってことなのだろうか。

ショッピングに出かける。高級モールの名を告げてスリウィーラーに乗ると、なんやかんやと売り込みも激しくなる。アーユルヴェーダやら宝石やら。
コロンボ一の高級モールであるODELに入ってみたけれど、ブランド品ばかりで何も買うものがないので、そばにある地元のスーパーへ移動する。ここで、ダストティーとカシューナッツを購入。カシューナッツはスリランカの物価にしてはなかなか高く、100gで250円くらいする。

コロンボにはスリランカ国営紅茶局が直営する紅茶の販売所があるというので、そこで本物のセイロンティーを買いたい。
品揃えはそれほどでもなかったけれど、オレンジ・ペコーの紅茶が大変安く買えた。500gで475ルピーなので、300円ちょっとという計算だ。この値段はスーパーより安い。これはわざわざスリウィーラーに乗って買いに来る価値がある場所だ。

紅茶局から徒歩数分のところに、先日訪ねたジェフリー・バワのギャラリー・カフェがある。コロンボ滞在は今日が最後なので、贅沢なアフタヌーンティーセットを頼む。何と1200ルピー。サービスチャージも合わせると、日本円で1000円くらいなので、スリランカ的には贅沢極まる午後ではある。セットの食べ物をすべて平らげると、けっこうお腹がふくれた。
紅茶を注文しながら灰皿もリクエストするのはずいぶん無粋だな、と我ながら思うが、ついでに煙もくゆらせて、ゆっくりと流れる時間を過ごす。スリランカはわりと店内でもタバコが吸えるのが、愛煙者にはありがたいところ。
ジェフリー・バワのセンスが随所に残る最高のカフェで、吹き抜けの中庭がゆっくりオレンジ色に染まっていく。コロンボ最後の一日には、言うことのない時間だ。

ホテルに戻ると、きれいにベッドメイクがされている。ピローチップは100ルピーを置いておいた。日本円にして70円だ。
今回の旅、チップとは無縁のことが多かったせいもあり、相場が分からないままである。

1月19日

今日もホテルのレストランで朝食。紅茶づくしの毎日だったけれど、ハーバービューを眺めながら、久しぶりにコーヒーも飲んでみる。

昼過ぎにはチェックアウトして、列車で空港そばのビーチリゾート、ニゴンボへ向かう。スリランカ残りの日々は、海を見ながら読書にプールなどとしゃれこみたい。
コロンボ・フォート駅で買った切符、最後のスリランカ鉄道乗車は、三等にした。これで、一等からすべての等級に乗ったことになる。

近郊列車の座席はプラスティックのロングシート。ドアは開けたまま走るので、危ないが風が入り込み、車内は涼しい。
昼下がりという時間帯もあり、始発駅ではゆったり座れたが、次の駅からはかなり混んできた。コロンボ市内を出たらあとは下車で空いていくだけかと思いきや、意外に途中の郊外駅から乗ってくる客の数が多い。なので、昼間でもかなりの乗車率になってきた。
庶民の三等車だけあって、一等二等に比べると、いろいろな物売りがやってくる。ミカンやポップコーンなど、食べ物が多く、買う人もそれなりにいる。乞食の不具者が、小銭を鳴らしながら、通路を歩いてくることもある。

ニゴンボ駅からはスリウィーラーで、あらかじめ予約して置いたリゾートホテルに向かう。着いてみれば、プールもあるし、目の前はビーチだし、言うことのないロケーション。
リゾートに来ると、やっぱりちょっといいホテルに泊まりたくはなる。一晩7,500円ほど。

椰子の木陰のビーチベッドで、まったりと本を広げる。目の前の海は泳げるみたいだけど、それほど綺麗でもない様子。遊ぶためというよりは、カタマランボートが行き交うシーナリーを眺めるための海だ。
そして、やたらとカラスが多い。できればビーチにはカモメがいてほしいところだが、カラスの群れが圧倒的である。至近に糞も落ちてくる。

ビーチ沿いの道を歩く。リゾート地だけあって、レストランの数には事欠かない。
瀟洒な店構えのレストランに入ると、内装の雰囲気や店員のサービスもいいし、ご飯も美味しかった。イカの天婦羅風とフライドライス。
食後の紅茶を頼んだら、なぜだかリプトンのティーパックが出てくる。臥龍点睛とはこういうことだ。

1月20日

朝はカラスの声で目が覚める。雰囲気はぶち壊しだ。浜辺というよりは、賽の河原にいる気分になる。
朝食ビュッフェはまあまあの品揃えで、嬉しいのはコールドミートが置いてあることだ。客の8割方は欧米人で、それも年配層が大半。このホテルは空港に近いせいなのだろうか、値段のわりに客層がいい。
明日早朝の空港行きタクシーを、ホテルに頼んで手配しておく。2,500ルピー1,700円ほどなので、これは高いと言わざるを得ない。早朝のリゾートで、タクシーを道ばたで捕まえる自信がない以上、致し方ない出費だ。

本日も快晴。魚市場にでも行ってみようかと思っていたが、こんな日はビーチで日がな過ごす方がいいな、と考え直し、ゆっくりホテルで過ごす。
夕方になり、目の前の浜辺でビーチバレー大会の開幕式。スリランカ舞踊と、美人な踊り娘さんを至近で見られたので満足。そしてスリランカ最後の夜は更けていく。

スリランカ最後の晩餐は、ホテルの前のレストランでビーフカレー。熱々で美味い。
さすがカレーの本場だけあって、どこで食べても一定以上のカレーが味わえたけれど、しかし同じカレーとはいえ、ほんとうに店ごとに味は千差万別で、このあたりはさすが国民食といった感がある。

ホテルに戻ると、チェックアウトが早朝なので、今晩中に清算してほしいと言われ、レセプションへ。支払いをすると、毎日現金計算をしているはずのキャッシャーが、2050-1550=?を、一生懸命電卓で計算していた。同じ西南アジアとはいえ、やっぱりインドとは違うのが、スリランカだ。

1月21日

寝ぼけまなこのまま、タクシーで空港へ。まだ真っ暗。空港までは20分くらいと近い。
行きと同じように、シート3列を占領して寝ていたら、行きと同じように、目覚めるともう着陸寸前だった。クアラルンプール到着。ターミナルにあるスターバックスで腹ごしらえと、久しぶりにおいしいカフェラテでひと息をつく。
スリランカからマレーシアに戻ってくると、一気に周囲が先進国モードになる。駅がピカピカで、きちんとお釣りが帰ってくる。混雑にはそれなりの行列ができる。
市内への車窓が、スコールになった。チャイナタウンに着くまでには止んでほしいな、と思う。南国の雨はいきなりだ。

無事雨も止み、この旅49泊目、最後のホテルにチェックイン。49泊50日の旅、とあらためて書いてみれば、なかなか壮観である。
あてもなく、ショッピングモールを覗いたりして時間を潰す。夕食のあと、チャイナタウンにあるフットマッサージへ。
マッサージを受けながら、旅のノートを読み返してみる。マメに小遣い帳をつけているが、今回の旅で、一番安く上がったのはベトナムだった。スリランカは宿代と遺跡観光がかさみ、食事もホテル中心だったので、マレーシアより高くついている。

1月22日

さて、最終日。ワンタン麺を食べて、ホテルをチェックアウト。あとは列車とバスを乗り継いで空港へ向かうだけ。
空港行きの特急ホームにて、バックパックのショルダーベルトをしまい、キャリーパックに戻す。汗かいて荷物を背負う旅は、ここで終わり。

今日の服装はパーカーに長ズボン。長袖も長ズボンも、本当に久しぶり。靴下も50日ぶりに履いてみたが、ずいぶんと違和感がある。
帰りのフライトは、LCCではあるけれど、エアアジアのビジネスクラス。片道で4万円のお得なプレミアムシートは快適で、旅の最後にふさわしい。

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