イギリスに行ったことはないけれど、伝え聞くところでは大変にメシのまずい国であるらしい。「アングロサクソンというのは街を綺麗に住みこなし、そして本当にまずいメシを食うね」というのは小説家阿川弘之氏の言葉だけれども、異口同音に皆が同じことを言うのだからおそらく真実なのであろう。行ったことはないけれどね。
個人的には綺麗な街にふさわしく洋服が瀟洒で、まずいメシにも関わらずアルコールの旨い国、だという認識がある。いびつな文化は辺境で花開くのであろうか。
さておき僕自身、マフラーとトレンチはバーバリーを愛用させていただいております。本当はスーツも、といきたいところだけれども、僕自身にフィットしたものを買わねばならぬスーツはちょっと手が出ない。つまるところがマフラーもコートも親のお下がりなんである。お下がりで使える逸品には違いけれど、一抹の侘びしさがある。
イギリスのアルコール、と言えばやはりウィスキーだろうか。正確にはスコットランドですが。昔は国産物が大半だった近所の酒屋さんでも、なかなか旨いモルトが簡単に手に入るご時世になったというのは喜ばしい。
数年前、大学時代の先輩に勧められ、自分でもお気に入りになった「SINGLETON シングルトン」という銘柄があった。残念ながらその直後に味が変わってしまったのだけれども、香り高い独特の風味はなかなか他では味わえないものだった。
あの頃、僕はいつだって背伸びして、そうして高いカウンターに腰掛け、オン・ザ・ロックでウィスキーを飲んでいた。ちょいと大人に、近づいた気分で。
最近知ったのだけれども、”singleton”には直訳で「独りっ子」、転じて「独りで立派に生きていける独身者」という意味があるのだという。背伸びの酒にはふさわしい気概の意が込められたお酒を、僕はそうと知らずに飲んでいたわけだ。
まあそれから数年経っても親のお下がりのバーバリーなんで、残念ながら肩肘張らずにグラスを傾けるにはほど遠いんである。”singleton”として「SINGLETON」を飲む前に、バーバリーのシルク・マフラーをお下がりで貰う方が早いんではなかろうかと手ぐすね、もとい達観しているしがないわたくし。