不動産情報の収集と公開(アタマのトレーニング)

鄙からの発信-IT化の光と影として、誰かさんからの示唆にもとづく記事が書かれてた。せっかくなので、誰かさんからさらにかぶせ記事を書いてみようと思う。父親が不動産コンサルティングのプロで、息子がweb2.0の見習い。このトラックバックは面白いんでないかな。
往々にして人の文章パクりながら出典を明らかにしないことが多いので、その意趣返しも兼ねて(笑)。親子でしかもパブリックに公開しちゃっている文章だから、いささか面映ゆいのはあれども。

巨大企業や官公庁が提供するGISインフラに、long tail的に不動産情報がひもづく流れが加速すれば、専門家が情報を握ることで持っていた優位性はあっさりと消えるだろうと思うのであるし、既に消え去りつつあると思うのである。

じゃあ、消え去った後に僕ならこういうシステム作りたい、という思いつきを以下に。

門前の小僧的に言うと、取引事例が大量に、同一フォーマットで、時系列を重ねて収集されることにより、はじめてそのエリアの地価水準がどのくらいか、というのを算出することができる。

東京都港区六本木1丁目 100平方メートル 3000万円 2006/1
東京都港区六本木1丁目 200平方メートル 5000万円 2006/3
東京都港区六本木1丁目 300平方メートル 9000万円 2006/2

こんなデータ群があれば、「東京都港区六本木1丁目」の地価は平米あたり28万円ということになる。もちろん実際には、これに宅地だの商業地だの角地だのなんだのという個別要因が加わるのだけれども、原則的にはそういうことだ。で、どうやら土地の値段は下落傾向にありますね、という時系列分析もできるので、それで将来価値の線形トレンドも出ちゃったりする。

従来は、こういう取引情報をシステム的に管理しているのは専門家だけで、それも業界ごとに囲い込んでいたりしているのだけれども、これを仮に外部収集・公開できる仕組みができるとどうなるか。

不動産鑑定士や不動産取引業者には、おそらくデジタル化された大量の取引事例があると思うのだけれども、これら全てに緯度経度情報を付与して地図上にプロットできる仕組みをつくる。実際に国土交通省が街区レベル位置参照情報ダウンロードサービスというものを作っているので、遅かれ早かれ既存の住所データ全てに緯度経度情報を簡単に付与する仕組みはタダ同然で作れるだろう。

で、そのデータは全部公開してしまう。もちろん情報の正確性が求められるので、データの提供元は公共機関、不動産鑑定士、不動産取引業者、このあたりだろうか。
データをXMLにしておくと、

<data>
  <id>0001</id>
  <address>東京都港区六本木1丁目</address>
  <latitude>100.10.10.10</latitude>
  <longitude>100.10.10.10</longitude>
  <square>100平方メートル</square>
  <price>3000万円</price>
  <date>2006/01/01</date>
  <genre>商業地</genre>
  <detail>角地</detail>
  <author>ほげほげ不動産</author>
</data>

すごくおおざっぱだけれどもこんな感じになる。閲覧する人はAPI叩いてクエリを1本送るだけで終わり。「渋谷駅(の緯度経度)から半径10km、宅地、100~150平方メートル」と入れると、登録データのうち、該当するものすべてが<data>~</data>のかたちで返ってくる。
大事なのは、API公開によって、このデータ閲覧だけなら誰でもできるようにしておくこと。もちろん個人情報の兼ね合いがあるから、どこまで詳しいデータを提供するのは別だけれども。

情報を持っていることじたいがカネだと思っている人には理解しがたいのだろうけれど、閲覧でお金を取るからビジネスシーズが潰れてしまうのだ。とにかくタダで公開しておくと、世間のいろんな人はGoogle Mapsとかとmash upしていろんなサービスを作ると思う。例えば思いつきをあげておくと

・最近地価が上昇している/下落しているエリアマップ
・家族持ち必見!2DK、3DKマンション限定お買い得情報
・駅近がお得な駅情報ランキング
・このエリアに強い不動産屋リスト

などなど。この手の情報はマスメディアと専門業者が恣意的に操作しているとしか見えないのだけれども、全部GIS情報として公開してしまえば、情報を隠蔽し独占し、それだけで利益を上げる手法はもう終わりになる。

で、情報提供者にどんなメリットがあるのか、ということだけれども、一つは提供者自身のブランディングではないか。さっきあげたジャストアイディアの最後に「このエリアに強い不動産屋リスト」と何気なく書いておいたのだけれども、例えば新宿区で不動産を探そうとしている人が、「新宿区 マンション」なんてクエリを送れば、ずらずらっと不動産屋の名前が出てくるわけだ。
で、自分の欲しそうな物件情報をいっぱい扱っているところの不動産屋にコンタクトを取ればいい。さらに「中古に強い」とか「駅から離れているけど割とお得な物件を取り扱っている」とか、そんなクエリでも造作なく検索できるだろう。
これってビジネスチャンスじゃないか。データを提供、公開する人間には名声=ブランドがついてくる。これ、情報ビジネスのキホンです。Yahoo!が、あるいはぐるなびや価格.comがなぜ強いか。それは情報を(いちおう)無償で公開しているからなのだ。

もう一つのメリットは、専門家としての情報分析能力がブランディングされる、ということだろう。
地図上にある業者が取り扱っている物件がプロットされているとして、クリックすると例えばその業者のサイトに飛び、飛んだ先には詳細な分析情報が書いてあるとかね。「新宿区のファミリー向けマンションは最近新築がよく動いているけど、実は中古マンションで徒歩15分ならこれだけお得で、しかもここ数年の価格下落の影響があんまりない。渋谷区よりおすすめ」とかなんとか。
これも、大量の情報がシェアされているからこそ可能なわけで、そこで問われるのは自分が持っている情報量ではでなく、その情報を、専門家としていかにしっかり分析できているかどうかだ。まさに付加的な知恵での競争であり、そういう意味で非常にフェアな仕組みといえよう。これで、信頼できる情報を大量に公開し、かつそれを緻密に分析して顧客に提供できる業者が勝ち残っていく。麗しい姿だ。

不動産鑑定士なら、ここで専門家として「駅から徒歩5分圏内だと、角地であることの特殊要因はあんまり価格に反映されないけど、徒歩10分を超えると加算要因になってくる」なんてリニア分析をしてデータを公開していけば、たぶんコンサルティング需要は増えるんではないか。
その代わり、旧来のやり方で、単純に自分たちだけが抱え込んでいる情報をのぞき見ることが出来る特権だけをいかし、コネで仕事を受注しているような人たちは軒並み没落する。しかし、専門家として本来求められる能力はそういう付加価値をどれだけ産み出せるかということだろうし、その意味では健全な新陳代謝が起こりやすいかたちだといえるだろう。
こういう流れに乗っていけば、不動産業界はインテリジェンス・インダストリーとしての側面も持ち合わせて、生まれ変わっていく。

と、書いてみたんだけれど、実際にはどうなんだろう。通用するのかどうかよくわからない。それに、既得権益が絶対的に没落するパラダイムなので、たぶん進まないんだろうなあと思う。今でもオヤジ殿の業界の話を聞いていると、しょせん不動産業者に対抗するために、鑑定士の情報を集約しましょう、ていどな発想しか出ていないみたいなので、ああ専門家は専門家の世界と先入観、そして既得権があるがゆえに、mash upなパラダイムを思いつけないのかなあ、と傍目八目に感じる。

ここで話は一気に社会評論的なところにジャンプするのだけれども、こういう構造ってどんな業界でもあるし、若い世代がイライラしているのも、今の日本社会にある既得権益が、許容できる閾値を完全に超えてしまっているからではないのか。そういうのをどこで壊して世の中が変わるのか、僕はやっぱりそれを見たいし、もちろん関わりたいと思うのだ。その時に備えて、今はこんな机上のトレーニングでもしておくかな、というところでおしまい。

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