この日は、両家族が帰国の日。最後の骨休み、ということで午前中は恒例となった希望者参加のマッサージ。最後はちょっと高級なところで、と、ヴィラに併設されている「Chill」というスパを目指しタクシーに乗ったけれど、残念ながら人気店につき予約でいっぱい。そばで目についたマッサージ店で1時間ほど揉んでもらう。80,000Rp.(=¥700)。
午後は女性陣待望の現地ローカルストアでのショッピングタイム。父親二人をホテルに残し、タクシー2台に分乗してデンパサールへ。とりあえずデパートに行くのがよいでしょう、と、目抜き通りにあるデパートに入ったけれど、観光客が買うようなものは、ほんとうになにもない。デパートというより、日本なら昔の長崎屋のような品揃えで、観光客ならやっぱりクタあたりに行くべきだったかもしれない。
しかたなしに、次に向かったのはクンバサリ市場。ここは薄暗い4階建ての中に、日用品から土産物屋まで、何百の小さな店が入っている不思議なところだ。人が入っていないわけではないけれど、薄暗さ埃くささに加えそうとう広いので、閑散としてみえる。僕がいなければ、たぶん入り口見た段階で引き返したんじゃなかろうかというたたずまいだ。
ここで女性陣は思い思いに買い物をする。キャンドル、石けん、民芸品などひととおりの品揃えはあるので、あちらこちらの店に散らばる彼女たちが、欲しいものを決めた段階で僕が駆けつけるという算段。で、電卓をはじき、英語は片言しか通じない店主相手にボディーランゲージを使ってみたり、とりあえず半値以下に値切りまくって次々と買い物袋を増やしていく。1時間以上、ずいぶんと買い込んだあと、タクシーを2台止めて(これが一苦労だ)、ホテルへと戻る。
帰国が夜行便の両家族はレイトチェックアウトを決め込んでいるけれど、妻と僕は今日の夕刻の飛行機で、新婚旅行に旅立つことになっている。荷造りを済ませ、送迎バスの出発時間にロビーに降りていくと、家族7人が全員集合して僕らを見送ってくれた。買い物のせいで完全に放置されていた父と義父が、それぞれ餞別に、と余った手持ちのUSドルを僕らに差し出す。日本だとちょっとしたご祝儀、だけれども、インドネシアを旅する身にとってみれば、しばらくうまいものを食えるだけの金額になった。ありがたい。
送迎バスが動き出し、家族の顔が小さくなったところで、ひとつの大きな仕事が終わった実感が押し寄せる。まあ仕事というなら僕らではなく家族たちなんだろうけれど。両方の親兄弟が5日もひとつになって過ごしたこの南国の日々は、忘れえない家族の記憶になって残るだろう。海外挙式、良かったなあと、今でも思う。
今回、デンパサール往復の航空券に、ジャワ島ジョグジャカルタまでの国内線も切り込みで入れたため、国内線もビジネスクラスになる。広々としたラウンジも使えるし、たった1時間のフライトにも食事が出る。夕暮れの中、美しいバリの海に輝く夕焼けを見ながら、気がつけば日が沈み、そしてぽつぽつと灯りがともる、ジャワ島ジョグジャカルタに到着。空港に降り立ち、ここまでくると、いっきにローカルな雰囲気が僕らの周りにあふれ出す。旅が始まったねえ、と、妻と顔を見合わせながら、エアポートタクシーで市内へ。
今回はなるべく良いホテルに泊まろう、と思っていたのだけれども、ジョグジャカルタのハイクラスなホテルは決まって市街から外れた場所にある。遺跡への地の利や空港からの距離を考えるとそうなるのは自然な話だが、町歩きが好きな我々にはまったくふさわしくない立地。結局選んだのは、バリで泊まったソフィテルと同じ、アコーホテルグループが経営する、「Ibis Yogyakarta Malioboro」。2泊で122$なので、1泊6,000円前後。まあビジネスホテルなみの値段で、中もビジネスホテルといったところ。普段よりははるかに良い宿に泊まっているには違いないけれど。日本のビジネスホテルなみに、きれいな室内。
時間もずいぶん遅いので、軽い夕食をとりに出かける。鉄道駅そばにある安宿街まで、ベチャと呼ばれる三輪自転車に乗る。10分弱の移動で、5,000Rp.(=¥45)。外国人で賑わう一軒の食堂に入り、ジャワ風のチキン、トマトスープ、ミーゴレンにビールを注文。ぜんぶで70,000Rp.(=¥600)。やっぱり物価はバリより安い。そして奇しくも今日はクリスマス・イヴ。イスラム教の島で、鶏肉をつつくイヴの日を迎えるなんて、想像したこともなかった。で、店を埋めるのは多国籍の外国人ばかりということで、なぜか各国語でクリスマスソングを順番に歌うことになる。困った困った、と冷や汗をかきながら、二人でなんとか「きよしこの夜」を歌い上げ、拍手をもらって無事終了。不思議な一夜から、ハネムーンが始まりを告げた。