酒気帯び車椅子
★★★★☆
中島 らも (著) 集英社
中島らもの遺作。ヤクザに脅された商社マンが、結果家族を犠牲にし、そしてバイオレントなリベンジの終章に突入するというストーリー。筋書きが単純なだけに、そのシーンの筆致がより印象に残る。彼が書きたかったのは、単純な日常の中で、事象そのものは単純だけれども圧倒的な力を持つ出来事が起きること、そしてそれの積み重ねが人生というものだということ、それをいかに読ませるかにつきるのではないかと思う。
この小説に描かれた事件は、小説としてはありがちな設定で、ストーリー展開も平凡だ。しかしながらそこに描かれる感情も暴力も読み手の心理をえぐるリアルさがある。それだけが浮かび上がるほどに。
中島らもはあまりにもあっさりと死んでしまった。これが遺作であることを僕はとても悲しく思う。
けれどもそんな事すらも、彼の小説のように思えてしまう。
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