想像してみよう-尼崎脱線事故のことから

今さらながら、福知山線の脱線事故について考えてみる。

問題の根っこは何かといえば、「スピード優先、本数増加」と「旧規格とも言える路線での安全運行」を両立することはそもそもトレードオフの関係にあったにもかかわらず、責任を現場の運転士に押しつけ、違反者には「安全運転も時刻遵守もできない能無し」というレッテルをはり、懲罰的な見せしめ勤務とボーナスからの罰金(と呼ぶと労基法違反だが)で縛り上げるというJR西日本の体質にあるわけだ。

である以上、このニュースを聞いたときに、「俺も他人事じゃない」と思えたサラリーマンはどれだけいたのだろうか。というのが僕の次の関心事になる。死んだ運転士は特別な馬鹿ではなく、あれは明日の我が身なのだ。その想像力に立脚してものごとを考えることのできない、そしてヒステリックな魔女狩りをして溜飲を下げる日本社会に、ほんとうに哀しさを感じてしまう。

その想像力をもう一歩進めて我が身に置き換えると、業界的にはやはりこの4月から施行された個人情報保護法に思いが至る。去年の年末くらいから、ビジネス誌もIT誌もひたすら対応FAQ記事のオンパレードだったけれど、結局実際どうなったのか。

ええっと実名ブログということで一般論的な言い方をすれば、『個人情報が保護される仕組みになっているか、きちんと確認しましょう』ってどこの会社でもやることになったと思うのだけれども、その一方でビジネス誌なかんずく日経BP系の雑誌ではスピード経営とか特集が組まれているわけで、実のところもどっかのIT企業の標語は『スピード、スピード、スピード』だったりするのがその好例(あくまでもスピード経営の例であり、どっかのIT企業がセキュリティに気を配っていないというわけではありません。誤解なきよう)。人減らし経営は今でも続いているわけで、リソースが変わらないなかセキュリティ尊重とスピード経営を両立させようとすれば、誰だって福知山線の運転士みたいなアクションを取らざるをえない。つまり、規則に従順で批判精神をなくしつつ、規則をいかにかいくぐるかに力を入れる。これ末端としての解決策としては落ち着くところに落ち着いたって感じ。一般論的には(決して僕の個別体験ではありません 笑)。
さておき、もうこの時点でそもそもの趣旨がどうにかなってしまっているのだ。で、真面目に対応しようとすれば、あの運転士のように余裕がない現場を与えられた挙げ句に「お前はセキュリティを尊重していない。始末書」と責められるか、「お前はスピードの意味が分かっていない。減給」という結果になるかどちらかだ。それでも何とかまわっているうちはいいけれど、最終的なリスク・クライシスは脱線大惨事なみに悲惨なことになる。

僕はIT業界にいるので、比較的敷衍しやすいセキュリティ関連の話題で書いてみた。けれど、どんなビジネスマンだって同じような二律背反の問題のひとつやふたつ抱えているはずだ。その問題を解決できぬまま、経営効率の美名のもとにいろんなものが破壊されようとしているのが現在の産業社会の姿であり、その問題を省みることなく運転士やJRだけを責めて深層を省察することがないのが現在の日本の風潮なのだ。

JRの脱線事故の原因じたいは、個別事例として完結したかたちで究明する必要がある。それはそれで、あの事故が今の日本の何を象徴しているか、独り々々が再度我がこととして振り返ってみることが必要なのだろう。ついでにいうと、日本の全経営者にそういう想像力を持ってもらいたい。

Imagine there’s no heaven
it’s easy if you try
(略)
you may say I’m a dreamer
but I’m not the only one
I hope someday you’ll join us
and the world will be as one

Imagine – Jhon Lenon

そんなことを考えていると、マジでジョン・レノンが聴きたくなる夕べ。

【参考】
極東ブログ:JR福知山(宝塚)線脱線事故に思う
R30::マーケティング社会時評:JR事故の責任は日本国民にあるような気がしてきたぞ
霞が関官僚日記:この無力感はなんだ。

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1 Response to 想像してみよう-尼崎脱線事故のことから

  1. 匿名 のコメント:

    JR羽越線で特急が脱線・けが人多数、救助作業続く
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051225-00000212-yom-soci
    JRにはもう怖くて乗れません

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