賑やかな祭りの夜も明けて、今日は元旦。ゆっくり南国の寝正月、としゃれこみたいところだけれども、今日はスケジュールの都合で移動日なんである。
5回目にして最後の朝食をホテルでとる。パンケーキがあったりデニッシュが増えたり、というていどであまり代わり映えのしない朝ご飯だったけれど、フランジパニやブーゲンビリアの花が咲く庭を見ながら、強いくらいの陽射しに目を細める空間はなかなかよかった。半オープンスペースで食べる毎日は、南国リゾートならではの楽しみのひとつだ。
このホテルには、何匹もの子猫が住みついていて、時分どきになるとどこからともなくあらわれ、僕たちの足下でニャーニャーと朝食のおこぼれをねだる。ベーコンだのソーセージだのを切り分けて落としてやると、みんなで奪い合って食べて去っていく。猫らしい、いい気な自由さ加減だ。
行きは自力で乗り継ぎを探してきたのだけれど、帰りは島にある代理店のツアーデスクで、トラワンガンからロンボク島を含むヌサ・トゥンガラ州の州都であり、ロンボク島の中心でもあるマタラムまでのシャトルサービスを予約した。ひとり100,000Rp.(=¥900)。行きの乗り継ぎを全部合わせると2人で180,000Rp.だったのでプライベートのチャーターより高い計算になるが、バンサル港でまたもめるのもイヤなので、こちらにした。閑散としたところなので、タクシーを捕まえる自信も今ひとつない。
船は遠くなっていく島を背に、順調にバンサル港へと向かう。良く晴れた日で、あっという間に汗ばんでくる。入道雲が見えたりして、まるで日本の夏のようだ。そして、船は浜辺に到着。バックパックを背負って、一人ずつ海岸に降り立っていく。妻が下船し次は僕の順番になったのだけれど、荷物が重いせいでバランスを崩し、波打ち際にべっちゃりと転ぶ…。頭からずぶ濡れになり、さらに最悪だったのは海外用に買って持っていたGSMの携帯電話と、デジカメがパーになってしまったことだ。お財布の中のお札もべちゃべちゃ。幸いにして、iPodと日本で使っている携帯電話あたりは無事だったけど。行きと帰りとあわせて、バンサルは僕の中でぬぐいがたいイヤな場所として刻みつけられる。
馬車に乗り、シャトルバスが発着するレストラン前まで移動。バスが来るまでずぶ濡れのカットソーを脱いで絞り、レモンジュースを飲む。どうも寝込んだあたりからツイていない。
行きのタクシーは山道をショートカットして走ったけれど、帰りのシャトルバス(というか普通のマイクロバス)は、リゾート地のスンギギでも乗降があるため、アップダウンのある海岸線沿いを行く。高台から見るギリ三島は、まさに絶景。あんなところに6日もいたんだなあ、としみじみ思いながら、2時間弱で、バスはごみごみとしたマタラムに到着。
せっかくなので、マタラムにも1泊する予定にしている。ランガウィサタツアーで予約したのはマタラム一の「Lombok Raya Hotel」のスイートルーム。…と書くとすごそうだけど、田舎町の三つ星ホテルなので、580,000Rp.(=¥5,200)ほど。ふつうの部屋ともあんまり値段が変わらない。ホテル自体はとても広い敷地で、目の前がプールというなかなかのロケーションなのだけれども、残念ながらプールは工事中。広い敷地も、手間のかかる花や樹木は少なく、芝生が広がっている。
遅い昼食を、と、ホテル近くにあるマタラムモールへ出かける。残念ながらファストフードしか見あたらず。モール内も薄暗く、バリやジャワほど賑わってはいない様子。ガイドブックに載っている、マタラムモールのすぐ向かいにある「ディルガハユ」に向かう。こちらも薄暗くて日本の安食堂のようなたたずまいだけれど、中は案外に広い。エアコンも効いている。見渡すと、お客は身なりがこざっぱりした人ばかりで、店員の数のわりにそれほど混んでいないところを見ると、ちょっと高級、な部類に入るのだろうか。地方都市で昔からやっている老舗、という風だ。
この店の名物は「アヤム・プルチン」という鶏料理らしいので、それを頼む。妻はインドネシア納豆のテンペが好きなので、めざとく見つけて注文している。それに空心菜。アヤムプルチンは焼いた鶏肉半身を、ピリ辛のソースにつけて食べるが、滅法うまい。インドネシアで食べた食事の中では五指に入る。
この焼き鳥に感動するほど、僕個人の偏見ではあるがインドネシア料理は苦手である。油が多く、ココナツミルクが使われるものが多いため、くどい。おまけにタイ、カンボジア、ベトナム、ラオスといったインドシナ半島の食事に比べるとハーブの使い方がいまいちで、辛み、香り、コクが薄い気がする。滞在中つらかったのは食事、という、東南アジアに何度も行っている身としては珍しい弱音。ちなみに、ディルガハユの勘定は95,000Rp.(=¥850)だった。安いのか高いのかよく分からない水準だが、マタラムのレストランとしては、たぶんちょいとお高めなんだろう。
ふらふらと町を歩きながら、うまそうなランブータンを買い、さらにふらふらと、ガイドブックのスイーツ屋には目がない妻が見つけた「Mirasa」というパン屋に向かう。「地球の歩き方」によれば『お菓子の専門店。インドネシア中の焼き菓子やパンが一堂に会している』とのことだ。実際店内は混み合っており、ふつうの食パンから、味も素性もどんなものかよく分からない黒色のお菓子まで何十種類もの商品が並べられている。買い方は日本のパン屋さんとほぼ同じ。妻は何種類かのお菓子を買い込み、ほくほく顔で店を後にする。
ホテルに戻ると、疲れた様子で妻はお休み。僕は濡れた持ち物やら財布の中身を乾かして、気づくと一緒に寝入ってしまっていた。夕食の時間を逸してしまったので、今晩は買ったパンやら果物やらで腹をごまかして就寝。